【第11回】代官山 蔦屋書店文学コンシェルジュが、とっておきの一冊をご紹介します

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『あの映画みた?』
井上 荒野、江國 香織 新潮社 1,728円(税込)


名うての「物語好き」である女性作家ふたりが、映画について話した本。
帯に「語り尽くす」とあるけれど、「尽くし」切れないものが、
まだまだこの裏にはあるなあ、と思わせる。文章になった以上の熱量がすごい。

このテの本では、自分もみた作品が出てくるとうれしくなるもの。
しかし本書では「なんと自分はこの映画をみていなかったことか!」と思い知らされる。

私の場合、もっとも打ちのめされたのは、ダスティン・ホフマン主演の『卒業』。
え、あの映画って、そういう話だったのか!と己の目のフシアナぶりに呆然。
ただ、これは「みた年齢とその後」によるかと思う。
私はダスティン命だった高校時代、テレビの「月曜ロードショー」でみて、
ロマンチックな青春映画だと感激し大満足。以来みていない。

荒野さんも江國さんも、おそらく『卒業』の初見は10代ではないかと思う。
で、すぐさま本書に書かれているような見方をしたなら、すごすぎる。
この作品はおそらく、みた年齢で注目する人物がはっきり分かれる。
ダスティンが演じているベンジャミンを誘惑するミセス・ロビンソンの奥底を読み取り、
結婚式場で彼女が言った「もう遅いわ」。
これが誰に向けられたものかを見抜く。これには「何度か見る」が必要かと思う。
一つの作品がその時10代だったり40代になっていたりする一人の観客に降り積もらせたもの。
それが本書のP106からのまなざしなったのではないか。

もちろん「正解はそうなんだあ!」ではない。
だって、世界の見方はひとつではないけど、ふたつきりでもないから。

映画をみることは、世界をみること。
「あの映画みた?」という言葉に、題の記憶だけでうなずいてはいけない。
愛する一本、そして気に入らなかった一本にさえ、何度だってこのせりふが言える。
スクリーンに映し出された物語は、それこそ尽きせぬ発見や喜びを与えてくれるのだ。



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【プロフィール】
間室 道子
代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ。
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。
雑誌『婦人画報』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。
書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)などがある。